NAIST発!スタートアップ立ち上げで睡眠障害になるも完全復活したエンジニア兼共同創業者の起業人生

回答者武田武田康臣 福岡県出身 兵庫県在住 2006年九州工業大学卒業。2019年3月オトコロドットコム設立。共同創業者兼リードエンジニア。奈良先端科学技術大学院大学非常勤講師。
インタビュアー畑中畑中千佳 ライター歴18年。情報誌、ファッション誌の取材は1,000回以上。現在はwebに場所を移し執筆中。

―奈良先端科学技術大学院大学のご出身と伺いました
九州工業大学で将棋のアルゴリズムに関する研究をしていたのですが、ロボットの知能に関して深く学びたいと思い、大学院に進学しました。
奈良先端科学技術大学院大学(通称NAIST)のキャッチコピーは「無限の可能性、ここが最先端―Outgrow your limits.」。文字通り、全国から最先端の研究をしたいと優秀な学生が集まる場所でした。

僕は情報工学がベースでしたが、経済だったり、社会人を経験して会社を辞めて入学する人だったり…様々なバックグラウンドを持った人たちが、同じ志を持って勉強ができる環境は、ただただ刺激的でしたね!

―知的好奇心がくすぐられる場所だったんですね
1年目の時に「NAISTイノベーションネットワーク」という、技術者ベースの会社の勉強会を立ち上げました。それぞれの経験をベースにしてアイデアをビジネスにしていく作業は、本当にワクワクしましたね。そこで出会った知人と意気投合し、会社を立ち上げることになりました。

―どのような会社を始めたんですか?
自分たちの身の回りに起こっている問題を解決しようと周りに目を向けました。理系の大学院生、技術者は、優秀な人はたくさんいるのに、独身の方が非常に多かったんです。そもそもの男女比が9対1なので、女性と話すことも得意ではない人が多い。これでは日本の発展にすごくもったいないことをしているのではないか?という切り口から開発したのが「進化合コン」です!

―興味が沸くネーミングですね!
合コンをもっと発展させる、という意味を込めて名付けられました。機械学習を使って、相性を数値化し、カップルが成立するようにシステム化したものです。やるからには本気でやろうと、一緒に始めた知人は、大学院の博士後期課程に進み、ベースとなる技術の研究をし、海外発表もしています。


―AIが運命の人を探す手伝いをしてくれるんですね!
そして、その次に考えたのが進化合コンを後押しする「The Sekigae」。一言でいうと、席配置の最適化ですね。
このシステムを使うことで、自分に興味を持ってくれている人、この人と話した方がいいですよ、という提案を盛り込んだ席配置を、システムが行ってくれるんです。実際にこのアプリを使って合コンを行ってみたところ、カップル成立率が飛躍的に伸びました。

アプリの精度を調べるために「学生経営者仲間を集めて合コンしよう」と開催したのですが、そのときに出会ったのが…

―今の奥様!!
いえ、くまさん(弊社社長の斉藤)です(笑)

ここが、初めてのくまさんとの出会いでした。ある意味、結婚相手と同じくらいの運命かもしれませんね(笑)

合コン終了後、その場に残ってもらいフィードバックをもらうことにしました。その時に、くまさんとメールアドレスを交換したので、そこからは1〜2年に1回会って「最近、どう?」「こんなことしているんだよね」と、近況を報告するような関係が続いていました。

―学生経営者同士、共通の話題も多いですよね
そうですね。実はその頃経営がうまくいかず、アドバイスをもらった記憶があります。というのも、会社の最初の年商は38万円(笑)。せっかくおもしろいアプリを開発できたと思ったのですが、マネタイズに苦戦してすごく悔しい思いをしましたね。残念ながら、その後会社は縮小していきました。

―苦い経験をしてしまったんですね
心機一転、大阪で会社を立ち上げるという先輩起業家と意気投合し、ギフトの通販を始めました。当時、結婚祝い=形式的なものが多かったので、本当に自分たちが欲しい結婚祝いを提供しよう、と。軌道に乗る中で、ベビー服の取り扱いも始めました。自分たちやお客さまの結婚・子育てとライフステージが変わるとともに、視点が変わり、仕事の内容も変化していったのだと思います。インターネットのみの販売でしたが、年商は数億円規模まで成長しました。

ただ、先のトレンドが分からない状態で商品を発注するので、在庫がどんどん増えていく、という苦しい時期に突入します。

―在庫を抱えてしまうことはネット通販の悩みの種ですよね…
不良在庫は増えてしまったものの、それも資産なので、なかなか破棄することもできない。気づいたら、自転車操業的になっていきました。目の前の不良在庫にため息をつきながら「何とか、自分たちの強みを生かせないか?」と必死に考え、思いついたのが「フルカイテン」です。

―これはどういう事業ですか?
在庫運用効率を上げて、売上・粗利・キャッシュフローを最大化するシステムです。例えば、これまでは、担当バイヤーが過去の経験から「これくらいは売れるかな?」と予想をして買い付けていたものを、システムが判断して予想を立ててくれるので、余計な在庫を抱えてしまうリスクを減らしました。

もちろん、ネガティブな要素だけではありません。在庫があれば売れるであろう商品を視覚化して、利益に貢献することもできるのです。こうした様々なジレンマを解消するために開発をしました。

―それはメーカー、店舗、双方にメリットがありますね
そうですね。無駄も省けて、売上もアップできるので、年商100億円以上の会社も使ってくださるような、大きなシステムへと成長しました。ベンチャーキャピタルからの資金調達にも成功し、会社もどんどん大きくなろうと変革を遂げていました。

しかし、その一方で、僕の負担も比例するようにどんどん大きくなっていき…、睡眠時間を確保するのが難しくなっていきましたね。丸々3日間眠れないこともあり、会社で気を失って倒れていたこともありました。家族とも殆ど話す時間が取れず、このまま死んだら後悔ばかりだなと自問自答する日々を送っていました。

―会社は大きくなるのに、体と心がついていかない…
最終的には会社を辞めて再び独立する決断をしました。世界を変えられるような事業に携われる経験は本当に貴重で、最後までやりきりたいという思いもありましたが、一度リセットしようと。

―大きな決断でしたね
そうですね。その頃2番目の娘が生まれた時期でもありました。出産直前まで病室で開発するような生活を送っていたのですが、これからは「子育てファースト」だと心に決めたのもこの時です。自分と家族という軸がブレてはいけない、と痛感しました。

―その時、武田さんは35歳
それまで何年かに一度会っては近況報告をし合っていたくまさん(弊社・社長)にFacebookで連絡を取りました。「実は会社を辞めて一人で新しいことを始めるところなんだ。くまさんは、最近どう?」と。そしたら、くまさんも前の会社を辞めて、新しい道を模索していたときで。

くまさんの新しいアイデアは、聞けば聞くほどチャンスしかないと確信しました。それで「じゃあ一緒にやろう!」と。ちょうど、くまさんはオトコロドットコムの前身の検索サイトを始め、手ごたえを感じていて。そのプランをじっくり聞いた僕は「それならいけるはず!よし、これをもっと大きな規模でやろう」と言ったのを覚えています。

―意気投合、ですね!
そうですね。やっと、お互いの活動の点を線で結ぶことができる!と思いました。ただ、実はベビー服の事業だけは継続して開発の仕事を続けていたのと、4月から9月までは母校のNAISTで非常勤講師をしている関係で関西から拠点を動かすことは最初から考えていませんでいた。「拠点は移さずやるけどいい?」と聞くと、くまさんは「いいよ」と即答してくれて。なので、僕は創業時から兵庫県を拠点に仕事をしています。

―コロナの前から早々にフルリモートだったんですね!
そうですね、今ではリモートは徐々に浸透してきていますが、2019年3月の創業以来、ずっとこの形で働いています。そもそも「会社はこうあるべき」というのは歴史が作ってきたのだと思います。

僕たちは特定の企業に属したことがないので、良い意味でそういった固定概念がない。むしろ、自分たちの理想を模索していくのが好きな人たちの集まりなんです。なので、「リモートだから…」ということにはなりませんでしたね。「よっしゃ、やってみよう!」ただそれだけなんです。

―属していないからこそ、柔軟に対応できるのですね
今でも複数の仕事を掛け持ちしていて、1つに囚われない働き方をしています。一見大変そうに見えるかもしれませんが、それぞれの経験を、それぞれに生かすことができています。どれも僕に不可欠なものと捉えています。

今はフルリモートのおかげで、「お父さんがいなくてさみしい」という思いはさせなくて済んでいます。家の中で仕事はしているけれど、休憩中に本を読んであげることはできるし、お風呂もご飯も一緒の時間を共有できる。我が子の成長を横で見守ることができるって幸せですよね。

―理想の働き方を手に入れたんですね
思い描いていたものに近づいていますね。あとは、オトコロドットコムをもっと理想に近づけたいと思っています!

―その理想とはどういったものでしょうか?
僕たちが解決しようとしている課題は、市場の小さなローカルビジネスや地方に特化したニッチな情報がなかなかネット上で見つけられないことです。色々な場所に散り散りになっている情報をデータベース化して、ひと目で比較できるようにしたい。

―それが、検索疲れを解消する、ということなんですね!
うまくいけば、何億、何十億の人たちがみてくれるサイトになると信じています。ただ、今の達成度でいうと、ほんの数%。コツコツ作業をして、分かりやすい形にして届けるために、約500人の情報収集スタッフさん達と頑張っているところです。

―これからが楽しみですね
前職のフルカイテンのときは、規模が大きくなることで自分が潰れてしまい、苦い経験をしました。オトコロドットコムでは「もう自分の力じゃ及ばない」とならないように、しっかり体制を整えておきたいと思っています。今度は絶対に投げ出さずにいきたいなと。もう、ここからは未知の挑戦なので…うーん、怖さもあり、ワクワクもあり、と言ったところでしょうか。

コロナで世の中が変わってしまったように、これからの未来はどうなるかなんて誰にも分からない。だからこそ、自分の理想を追い求めつつも、家族やスタッフ、自分に関わってくれている人は幸せにしたい―そう思っています。